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2010.12.05

因幡の白兎(素菟) 八上媛 <古事記・日本書紀(7)>

【Podcasting】

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古事記物語 / 著・鈴木三重吉

 この大国主神(おおくにぬしのかみ)には、八十神(やそがみ)といって、何十人というほどの、おおぜいのごきょうだいがおありになりました。

 その八十神(やそがみ)たちは、因幡(いなば)の国に、八上媛(やがみひめ)という美しい女の人がいると聞き、みんなてんでんに、自分のお嫁(よめ)にもらおうと思って、一同でつれだって、はるばる因幡へ出かけて行きました。

 みんなは、大国主神が、おとなしいかたなのをよいことにして、このかたをお供(とも)の代わりに使って、袋(ふくろ)を背おわせてついて来させました。そして、因幡の気多(けた)という海岸まで来ますと、そこに毛のないあか裸(はだか)のうさぎが、地べたにころがって、苦しそうにからだじゅうで息をしておりました。

 八十神(やそがみ)たちはそれを見ると、

「おいうさぎよ。おまえからだに毛がはやしたければ、この海の潮(しお)につかって、高い山の上で風に吹かれて寝(ね)ておれ。そうすれば、すぐに毛がいっぱいはえるよ」とからかいました。うさぎはそれをほんとうにして、さっそく海につかって、ずぶぬれになって、よちよちと山へのぼって、そのまま寝ころんでおりました。

 するとその潮水(しおみず)がかわくにつれて、からだじゅうの皮がひきつれて、びりびり裂(さ)け破れました。うさぎはそのひりひりする、ひどい痛(いた)みにたまりかねて、おんおん泣き伏(ふ)しておりました。そうすると、いちばんあとからお通りかかりになった、お供の大国主神がそれをご覧(らん)になって、

「おいおいうさぎさん、どうしてそんなに泣いているの」とやさしく聞いてくださいました。

 うさぎは泣き泣き、

「私は、もと隠岐(おき)の島におりましたうさぎでございますが、この本土へ渡(わた)ろうと思いましても、渡るてだてがございませんものですから、海の中のわにをだまして、いったい、おまえとわしとどっちがみうちが多いだろう、ひとつくらべてみようじゃないか、おまえはいるだけのけん族をすっかりつれて来て、ここから、あの向こうのはての、気多(けた)のみさきまでずっと並(なら)んでみよ、そうすればおれがその背(せ)中の上をつたわって、かぞえてやろうと申しました。

 すると、わにはすっかりだまされまして、出てまいりますもまいりますも、それはそれは、うようよと、まっくろに集まってまいりました。そして、私の申しましたとおりに、この海ばたまでずらりと一列に並びました。

 私は五十八十と数をよみながら、その背なかの上をどんどん渡って、もう一足でこの海ばたへ上がろうといたしますときに、やあいまぬけのわにめ、うまくおれにだまされたァいとはやしたてますと、いちばんしまいにおりましたわにが、むっと怒(おこ)って、いきなり私をつかまえまして、このとおりにすっかりきものをひっぺがしてしまいました。

 そこであすこのところへ伏(ふ)しころんで泣(な)いておりましたら、さきほどここをお通りになりました八十神(やそがみ)たちが、いいことを教えてやろう、これこれこうしてみろとおっしゃいましたので、そのとおりに潮水(しおみず)を浴びて風に吹かれておりますと、からだじゅうの皮がこわばって、こんなにびりびり裂(さ)けてしまいました」

 こう言って、うさぎはまたおんおん泣きだしました。

 大国主神(おおくにぬしのかみ)は、話を聞いてかわいそうだとおぼしめして、

「それでは早くあすこの川口へ行って、ま水でからだじゅうをよく洗って、そこいらにあるかばの花をむしって、それを下に敷いて寝(ね)ころんでいてごらん。そうすれば、ちゃんともとのとおりになおるから」

 こう言って、教えておやりになりました。うさぎはそれを聞くとたいそう喜んでお礼を申しました。そしてそのあとで言いました。

「あんなお人の悪い八十神(やそがみ)たちは、けっして八上媛(やがみひめ)をご自分のものになさることはできません。あなたは袋(ふくろ)などをおしょいになって、お供(とも)についていらっしゃいますけれど、八上媛はきっと、あなたのお嫁(よめ)さまになると申します。みていてごらんなさいまし」と申しました。

 まもなく、八十神たちは八上媛のところへ着きました。そして、代わる代わる、自分のお嫁になれなれと言いましたが、媛(ひめ)はそれをいちいちはねつけて、

「いえいえ、いくらお言いになりましても、あなたがたのご自由にはなりません。私は、あそこにいらっしゃる大国主神のお嫁にしていただくのです」と申しました。

 八十神たちはそれを聞くとたいそう怒(おこ)って、みんなで大国主神を殺してしまおうという相談をきめました。

 みんなは、大国主神を、伯耆(ほうき)の国の手間(てま)の山という山の下へつれて行って、

「この山には赤いいのししがいる。これからわしたちが山の上からそのいのししを追いおろすから、おまえは下にいてつかまえろ。へたをして遁(に)がしたらおまえを殺してしまうぞ」と、言いわたしました。そして急いで、山の上へかけあがって、さかんにたき火をこしらえて、その火の中で、いのししのようなかっこうをしている大きな石をまっかに焼いて、

「そうら、つかまえろ」と言いながら、どしんと、転(ころ)がし落としました。

 ふもとで待ち受けていらしった大国主神は、それをご覧になるなり、大急ぎでかけ寄って、力まかせにお組みつきになったと思いますと、からだはたちまちそのあか焼けの石の膚(はだ)にこびりついて、

「あッ」とお言いになったきり、そのままただれ死にに死んでおしまいになりました。

青空文庫より

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◎白兎海岸
  http://yokoso.pref.tottori.jp/...

◎白兎神社
  http://www.google.co.jp/...

◎隠岐の島町
  http://www.town.okinoshima.shimane.jp/

◎伯耆(ほうき)町
  http://www.houki-town.jp/

◎鳥取いなば観光ネット
  http://www.tottori-inaba.jp/

◎売沼神社
  http://www.google.co.jp/...

◎赤猪岩神社
  http://www.google.co.jp/...

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【古事記・日本書紀 Podcasting】
(1)概要紹介
(2)天地開闢・国産み・黄泉の国
(3)黄泉の国・天照大神の誕生
(4)天の岩屋
(5)八岐大蛇
(6)スサノオノミコトと牛頭天王、蘇民将来
(7)因幡の白兎 八上媛
(8)根堅州国 須勢理媛
(9)大国主神の国づくり

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